漢方医学でみる頭痛の治療ポイント

頭痛は、多くの人々が日常的に経験する症状であり、その原因や治療法は多岐にわたります。

西洋医学でも頭痛専門の外来が増え、頭痛で悩む患者は増加しています。

漢方医学では、頭痛の治療において全身のバランスを重視し、気・血・水(津液)の調和を図ります。

頭痛の原因を体内のエネルギーの停滞や不足、血行の滞り、津液の偏りなどと捉え、個々の体質や症状に応じた治療法を提供します。

例えば、気滞型の頭痛には疎肝理気薬を、血瘀型の頭痛には活血化瘀薬を使用することが一般的です。

また、生活習慣や食事、運動などの日常生活の改善も重要視され、患者の総合的な健康状態を向上させることを目指します。

漢方では、頭の痛みを主症状とするものを『頭痛』と称し、劇烈で反復するものを『頭風』、器質的病変によるものを『真頭痛』と呼びます。

本記事では、漢方医学における頭痛の治療ポイントを詳しく解説します。

頭痛とは何?タイプ別の原因と治し方

一般的に「頭痛持ち」と呼ばれる場合、その多くは一次性頭痛であり、代表的なタイプとして「片頭痛」「緊張型頭痛」「群発頭痛」があります。

片頭痛

片頭痛は、こめかみから目にかけて片側を中心に、時には両側や後頭部までも脈打つように痛むことが特徴です。

発生のきっかけとしては、ストレスやストレスからの解放、寝過ぎや寝不足、女性ホルモンの変化(月経周期)、天候や気圧の変化、空腹、肩こり、アルコールなど様々です。

片頭痛発作治療薬

頭痛の薬物療法には、発作治療薬と予防療法があります。

発作治療薬は、頭痛発作時に早期に症状を沈めるための薬で、以下が代表的です。

薬物療法の種類内容
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、軽症から中等度の片頭痛に対する第1選択薬です。市販薬としては「イブ®」がよく知られており、「ロキソニン®」や「カロナール®」などもあります。これらの薬は、「アラキドン酸カスケード」を遮断することで炎症を抑え、痛みを和らげます。片頭痛のガイドラインでも安全で安価であり、効果が高いため「グレードA(強く推奨する)」に分類されています。ただし、トリプタン製剤よりも効果が限定的です。過度な使用は「薬物乱用頭痛」を引き起こす可能性があり、胃や腎臓・肝臓への負担も懸念されます。そのため、市販薬で効果がない場合は、トリプタン製剤の使用を検討します。
トリプタン製剤トリプタン製剤は、片頭痛の原因である血管の拡張を抑え、神経ペプチドの放出を抑制し、痛みの伝達経路を抑えることで片頭痛発作を抑えます。片頭痛ガイドラインでも「グレードA(強く推奨する)」に分類されていますが、市販薬よりも高価です。トリプタン製剤には、口の中で溶けるもの、注射薬、点鼻薬などの形態があります。個々の患者によって適した形態が異なるため、医師と相談しながら適切な薬を見つけることが重要です。
レイボー®レイボー®は、2022年に承認された新しいタイプの片頭痛発作治療薬です。セロトニン1F受容体に直接作用し、片頭痛発作を引き起こす物質の放出を抑えることで症状を和らげます。レイボー®の特徴は、片頭痛発作が起こってからでも効果がある点です。時間的制約が少なく、頭痛発作の治療に使いやすい反面、副作用の発現率が高いことがデメリットです。浮動性めまい(39.4%)、傾眠(19.3%)、だるさ(10.5%)などの副作用があり、それぞれ2-4時間程度続く可能性があります。

片頭痛予防薬:発作治療薬と併用する予防療法

片頭痛の予防薬は、発作治療薬のみでは日常生活に支障が残る場合に、頭痛の頻度・程度・持続時間を減らすために使用されます。

予防薬はしばらく使用しないと効果が発揮されないため、発作治療薬と併用することがポイントです。

以下が代表的な予防薬です。

薬物療法の種類内容
β遮断薬(インデラル®)β遮断薬は、本来不整脈の治療に使われますが、片頭痛の予防にも効果があります。インデラル®がその代表例です。
降圧薬(ブロプレス®)降圧薬も片頭痛予防に使用されることがあります。ブロプレス®はその代表例で、高血圧の治療に用いられる薬です。
抗てんかん薬(デパケン®)抗てんかん薬は、神経の異常な活動を抑える効果があり、片頭痛の予防にも役立ちます。デパケン®がその代表例です。
抗うつ薬(トリプタノール®)抗うつ薬も片頭痛予防に使用されます。トリプタノール®は、その代表例であり、神経のバランスを整える効果があります。
新しいタイプの片頭痛予防薬近年、新しいタイプの片頭痛予防薬が登場しています。これらは、片頭痛発作時の血管拡張や炎症反応の直接の原因とされる「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」の働きを抑える「ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤」です。これらの薬は月1回から3か月に1回の注射タイプであり、1本あたり4万円以上するため、保険を利用しても月1万円以上の費用がかかります。希望される場合は、適切な医療機関への紹介が必要です。

緊張型頭痛

緊張型頭痛は、両側の後頭部から首すじにかけて重苦しい感じや、頭をベルトで締めつけられているような圧迫感が生じます。

ほぼ毎日起こるもの、時々起こるものがあり、同じ姿勢を取り続けるなどの身体的ストレスや環境の変化による精神的ストレスがきっかけで起こります。

緊張型頭痛の治療と対策内容
頭痛解消のための効果的な運動療法とリラクゼーション法頭痛の解消には運動療法とリラクゼーション法が有効です。
頭痛に対する運動療法ストレッチやトレーニングを取り入れ、痛みに関係する部分だけでなく、左右対称の動きを心がけて全身をバランスよく動かすことが重要です。適度な運動により筋肉の緊張がほぐれ、血行が改善されます。
入浴によるリラクゼーション効果ぬるめのお湯に長く浸かる入浴は、体を芯まで温めて血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。同じ姿勢を続けることによるストレスが原因で起こる頭痛には特に有効です。
リラクゼーション法で心と体の緊張を緩和深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を取り入れることで、ストレスを軽減し、頭痛の予防や緩和に繋がります。

群発頭痛

群発頭痛は、頭痛の中でも特に痛みが強く、片方の目の周りがひどく痛むことが特徴です。

その痛みは「目の奥をえぐられるような激しさ」と表現されるほどです。

発生のきっかけはまだ明確にはわかっていませんが、夜間や睡眠中に多く発生することが知られています。

以下に、頭痛発作時の急性期治療と予防療法を表にまとめます。

この表にまとめた内容は、頭痛発作時の対症急性期療法と予防療法を効果的に組み合わせるための参考となります。

急性期の迅速な治療と予防薬の使用により、頭痛の発作頻度と強度を管理することが可能です。

種類・方法内容効果・注意点
急性期治療
群発頭痛の急性期治療スマトリプタンの皮下注射保険適用、即効性が高い
酸素吸入(マスクで純酸素7~10L/min、15分間)2018年4月に保険適用承認、鎮痛薬無効
酒石酸エルゴタミンは発作後の使用では効果なし
予防療法
群発期の予防療法高用量のベラパミル(適用外使用)主要な予防薬、国際的に推奨
副腎皮質ステロイド(適用外使用)予防薬として効果的
炭酸リチウム、バルプロ酸など慢性群発頭痛の予防に有効

痛みの発生のしくみ:なぜ痛みが生じるのか?中医学的に解説!

漢方医学では、頭痛を含む様々な痛みを「不通則痛」と「不栄則痛」の二つのパターンに分類して考えます。

漢方医学では、これらの理論に基づいて、頭痛や他の痛みの原因を診断し、適切な漢方薬を処方することで症状の改善を図ります。

不通則痛(実証)

不通則痛は、「通ぜざれば則ち痛む」という考え方に基づきます。

これは、様々な原因によって臓腑や経絡の気機が阻滞し、気や血の運行が滞って通じなくなることで痛みが生じる状態です。

このタイプの痛みは実証に分類されます。

不栄則痛(虚証)

不栄則痛は、「栄えざれば則ち痛む」という理論に基づきます。

気や血の不足により、臓腑や経絡、組織、器官が滋養されずに痛みが生じる状態です。

このタイプの痛みは虚証に分類されます。

外感かまたは内傷かの弁別

頭痛は漢方医学では大きく外感と内傷に分類されます。

頭部は人体の最高部に位置し、脳髄を内蔵しています。

臓腑の清陽の気が頭に上がり、手足の三陽経及び一身の陽を主る督脉が巓頂部に会しているため、「諸陽の会」、「清陽の府」と称されます。

「脳は髄海となす」と言われ、肝腎の精血による濡養作用と脾胃による水穀の精微の運化や清陽の気の升提により支えられています。

特徴外感頭痛内傷頭痛
発病の初期状況急性で急激な発病発病が緩やかで進行が比較的穏やか
病期の長さ病勢が激しく、痛みが持続する比較的穏やかな痛みが長期間続く
疼痛の性質掣痛(ひっぱられるような痛み)、跳痛(ズキズキした痛み)、胀痛(張って痛む)、重痛(重だるい痛み)などシクシクとした痛み、空虚感を伴う痛み、くらくらとした痛みなど
悪化の要因外邪の影響による過労や精神的ストレスによる
発症と寛解外邪にさらされることで発症し、外邪の影響により悪化発症と寛解を繰り返す

外感頭痛

外感頭痛は外邪を感受して、気機が阻滞することにより発症します。

典型的な症状には掣痛(ひっぱられるような痛み)、跳痛(ズキズキした痛み)、脹痛(張って痛む)、重痛(重だるい痛み)があります。

外感性頭痛は風や他の六淫の邪気を感受し、巓頂に上犯して清陽の気を阻滞することで生じます。

特に頭部は人体の陽位にあり、風邪や炎上性の火邪によって頭痛が引き起こされることが多い性質を持ちます。

風は多くの病の原因とされ、「風邪は百病の長」と言われる通り、他の寒・熱・湿などの外邪と共に人体を侵害することがあります。

風寒、風熱、風湿のそれぞれの頭痛の特徴と発症メカニズムは次の通りです。

種類特徴発生メカニズム
風寒頭痛寒邪の凝滞性により、「不通則痛」を生じる脈絡の流れが風寒により阻まれることによる
風熱頭痛風邪と熱邪の陽邪が共に作用し、炎上性の頭痛を引き起こす上方を乱し、気血を逆行させることによる
風湿頭痛湿邪の重濁性や粘滞性により、頭重感を伴う清陽の気を湿邪が阻害することによる

内傷頭痛

精神刺激(肝)

  • 情志不和により肝の疏泄作用が失調し、肝気鬱結が生じると頭部の気機が停滞して頭痛が発生します。
  • 肝火が上昇し、頭部を上擾して頭痛が起こることもあります(肝火上炎)。
  • 肝陽が上亢し、頭痛が引き起こされる場合もあります(肝陽上亢)。

飲食(脾)

  • 飲食の不節制が脾の運化機能を失調させ、痰湿や食滞を生じ、これが上擾して清陽を阻害し頭痛を引き起こします。
  • 脾胃虚弱により気血の生成不足が起こり、頭部が栄養不足となって頭痛が生じることもあります(不栄則痛)。

腎虚

  • 腎精不足により脳髄が空虚となり、頭痛が発生します(腎主髄)。
  • 腎精・腎陰の損傷により腎陽が衰え、清陽が頭部に届かなくなることで頭痛が生じる場合もあります。

久病(慢性疾患)

  • 外感病や内傷による頭痛が長期間続くと、気滞血瘀が併発し、脈絡の気血が停滞して頭痛が悪化します。
  • 頭部の外傷や手術後の血瘀も頭痛の原因となることがあります。

疼痛の性質による弁別

疼痛の性質病因特徴
脹痛気滞、火邪や熱邪の影響
(肝陽上亢、肝火上炎)
一般的に脹った感じの痛みが特徴
掣痛、ズキズキした痛み陽気の亢進によるひっぱられるような痛みやズキズキした痛みが多い
重だるい痛み痰湿の影響痛みが重く、重だるい感じが特徴
クラクラとした痛み痰湿や寒厥の影響クラクラとした痛みや意識がはっきりしない痛みが多い
チクチクした痛み寒厥の影響冷感を伴うチクチクとした痛みが特徴
錐で刺したような痛み瘀血の影響錐で刺したような鋭い痛み、痛む部位が一定する場合
シクシクとした痛み精血の損傷シクシクとした痛みが特徴、空虚感を伴うことが多い
クラクラとした痛み気血の不足クラクラとした痛みでめまいを伴うことが多い

疼痛部位による弁別

頭部は手足の三陽経が会合する場所であり、また足の厥陰肝経も頭頂に流入しています。

このため、漢方治療では以下のように頭痛の部位から病変した臓腑経絡を予測します。

疼痛部位病因や病邪の所在
頭部全体気血不足や肝腎陰虚などの影響
後頭部、頸部陽亢の影響、太陽経の影響
頭頂部寒厥の影響、厥陰経の影響
両側頭部肝火の影響
前頭部陽明経の影響
側頭部少陽経の影響

誘因の弁別

誘因内容病因
過労過度の身体的または精神的な負荷が原因気血や陰精の不足からの内傷
七情内傷情緒的なストレスや不安定な感情が原因肝火の過剰からの影響
性生活の不摂生性的な過剰または不規則な生活が原因陽亢の状態からの影響
気候の変化気温や湿度の変化が引き金となる場合寒湿の影響
飲酒や暴食過剰な飲酒や食事が原因陽亢の状態からの影響
外傷外的な怪我や衝撃が原因瘀血の形成

頭痛の漢方治療のポイント

漢方では、病気の診断・治療方法に「弁証論治」という方法を用います。

頭痛の治療においては、発病からの期間や疼痛の性質・特徴・部位などを考慮し、外感と内傷を明確に区別し、虚実の弁別を行うことが重要です。

適切な漢方薬の処方により、臓腑の調和を取り戻す治療を目指します。

外感頭痛

  • 特徴:急性の発病と激しい痛みが特徴です。
  • 病因:外邪が原因であり、実証が多く見られます。
  • 治療アプローチ:祛風散邪などの祛風解表の処方が主体です。

内傷頭痛

  • 特徴:症状の経過が穏やかで、痛みが激しくありません。
  • 病因:虚証が多く、実証や虚実夾雑も見られることがあります。
  • 治療アプローチ:扶正或いは扶正袪邪の処方が主体となります。

頭痛の弁証論治

この表にまとめることで、それぞれのタイプごとに適切な治療や対策を考えることができますね。

分類主な原因や症状
気候や環境の影響による風寒、風熱、風湿、暑湿、実寒
ストレスによる肝気鬱結、肝火上炎
水分代謝が悪いために生じる痰飲
暴飲暴食などによる胃熱、食滞
血液の流れが悪い血瘀
過労や睡眠不足が引き起こす気虚、陽虚、血虚、陰虚
加齢による腎虚

簡単な体質セルフチェックで、
あなたにピッタリの健康法がわかる

今すぐチェック!

あなたの体質にピッタリの商品を見つけて
心身の健康維持にお役立てください!

薬剤師
河邊甲介

宮崎県の川南町にある峠の里からの絶景を眺めながら、漢方と薬膳を組み合わせた腸活相談が受けられる「薬局×セレクトショップ」です。

「中医薬膳師×薬膳素材専門士×ペットフーディスト」の資格を有する薬剤師が、体調不良、ダイエットやアトピーなどの悩みにも親身に対応します。

無料の漢方相談も行っております。

また、ペットの腸活アドバイスなども行っています。

お店の特徴を活かし、人とわんこの心と身体の健康をサポートします。

宮崎県川南町「ほどよい堂」では、「漢方×薬膳×腸活」に関する様々な商品を揃えています。

気軽に一度、ご相談にお越しください!

著者プロフィール

河邊甲介 (薬剤師)

KOSUKE KAWABE

▷有資格

  • 薬剤師
  • 中医薬膳師:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
  • 薬膳素材専門士:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
  • ペットフーディスト

▷経歴

  • 福岡大学薬学部卒
  • 総合病院薬剤部・調剤薬局にて勤務
  • 2024年1月より宮崎県川南町(峠の里)にて漢方×薬膳×腸活のお店「ほどよい堂」を開局

身体とこころの安心をお届けします

薬剤師であり、漢方×薬膳×腸活の専門家として、「ほどよい堂」を運営しています。
中医学的体質診断を基に、個別に最適な健康アドバイスを提供し、無料相談も実施中。
健康に関するお悩みを漢方や薬膳、腸活でサポートし、体質改善を目指します。
健康維持や未病対策に関心のある方は、ぜひご相談ください。