漢方医学でみる後鼻漏の治療ポイント

後鼻漏は、鼻水が喉に流れ込む不快な症状で、多くの人々が日常的に悩んでいます。

西洋医学では抗ヒスタミン薬やステロイドを用いた治療が一般的ですが、漢方医学では全身のバランスを整えることで根本的な改善を目指します。

漢方医学は、個々の体質や症状の原因に基づいたオーダーメイドの治療法を提供し、自然治癒力を高めることを重視します。

この記事では、後鼻漏に対する漢方医学の治療ポイントについて詳しく解説し、その効果と実践方法を紹介します。

これにより、後鼻漏に苦しむ方々が漢方医学を取り入れて、より健康的な生活を送るための一助となることを願っています。

後鼻漏の悩み解消!鼻水がのどに落ちる原因と改善方法

後鼻漏は、鼻水が喉に流れ落ちる症状で、喉の不快感や異物感、咳き込み、咳払い、痰絡み、睡眠障害、いびきなどの症状を引き起こします。

健康な状態でも鼻水は喉に流れて排泄されますが、通常は気づきません。

しかし、鼻水の量が増えたり、粘っこくなったりすると、後鼻漏として自覚するようになります。

鼻をかんでも鼻水は前方に出ず、喉に流れ込むため、口から吐き出すか飲み込むしかありません。

この不快感は非常に大きく、重症化すると日常生活や対人関係に悪影響を及ぼします。

後鼻漏の原因と症状

原因説明
副鼻腔炎副鼻腔の感染や炎症によって鼻水が増加し、後鼻漏を引き起こす
アレルギー性鼻炎アレルギー反応によって鼻水の分泌が過剰になり、喉に流れ込む
上咽頭部の炎症上咽頭部の炎症が鼻水の排出を妨げ、後鼻漏の原因となる
神経過敏神経が過敏になり、正常な鼻水の量でも後鼻漏として感じてしまう
逆流性食道炎胃酸の逆流によって喉や鼻の粘膜が刺激され、鼻水の分泌が増加する
加齢年齢とともに鼻や喉の粘膜の機能が低下し、鼻水が後鼻漏として感じられるようになる
主な症状説明
鼻水が喉に垂れる鼻水が前方ではなく喉に流れ込むため、後鼻漏として自覚される
喉の不快感や異物感喉に流れ込む鼻水が不快感や異物感を引き起こす
咳き込み、咳払い喉に流れ込む鼻水が刺激となり、咳き込みや咳払いが頻繁に起こる
痰絡み喉に流れ込む鼻水が痰となり、痰が絡む感覚を引き起こす
睡眠障害後鼻漏の不快感が原因で、睡眠の質が低下し、睡眠障害を引き起こす
いびき鼻水が喉に流れ込むことで、いびきをかく原因となる

後鼻漏の治療方法:原因別アプローチ

後鼻漏の治療方法は、鼻水の発生原因によって異なります。

以下に、主要な原因別の治療法をまとめました。

アレルギー性鼻炎の場合

  • 抗アレルギー薬の内服:アレルギー反応を抑えるための薬を服用します。
  • 点鼻薬:鼻腔内に直接薬を投与し、症状を軽減します。
  • レーザー治療(下鼻甲介粘膜レーザー焼灼術):レーザーを使用して鼻腔内の粘膜を治療します。
  • 手術療法(後鼻神経切除術):アレルギー反応を引き起こす神経を切除する手術です。
  • 舌下免疫療法:アレルゲンを少量ずつ体内に取り入れ、アレルギー反応を軽減します。
アレルギー性鼻炎に使用する主な薬剤の概要
治療薬の種類主な薬剤名特徴と効果副作用
第2世代抗ヒスタミン薬アレグラ、クラリチン、アレジオン、エバステル、タリオン、ジルテック、ザイザル、アレロックヒスタミンによる鼻汁やくしゃみを短時間で抑える。第1世代と比べて眠気が少ないが、個人差があり眠気が出ることもある。眠気(個人差あり)、効果の強い薬ほど眠気が強い傾向
抗ロイコトリエン拮抗薬オノン、シングレア、キプレス、プランルカスト特に鼻閉に有効。血管拡張と鼻粘膜の腫脹を抑える。喘息治療にも使用され、眠気が少ない。抗ヒスタミン薬と併用されることが多い。効果は数日間の服用で徐々に現れる。約3割の患者に効きにくい体質が報告されている
点鼻薬ナゾネックス、アラミスト、フルナーゼ、リノコート、エリザス鼻粘膜局所の治療に有効。ステロイドがアレルギー反応を抑える。局所投与により全身副作用を抑えつつ高い効果を期待できる。局所投与による副作用が少ないが、長期間使用すると副作用のリスクがある

副鼻腔炎が原因の場合

  • 抗菌薬などの内服:感染を抑えるための薬を服用します。
  • ネブライザー治療:霧状の薬を吸入し、副鼻腔の炎症を和らげます。
  • 手術療法(内視鏡下副鼻腔手術):内視鏡を使用して副鼻腔の問題を解決します。

上咽頭炎が原因の場合

  • 抗菌薬などの内服:炎症を抑えるための薬を服用します。
  • ネブライザー治療:霧状の薬を吸入し、上咽頭の炎症を和らげます。
  • Bスポット療法(上咽頭擦過治療:EAT療法):上咽頭を擦過して治療する方法です。

また、必要に応じて漢方薬を処方する場合があります。

漢方医学では、全身のバランスを整えることを重視し、個々の体質に合わせたオーダーメイドの治療を提供します。

自律神経と鼻詰まりの関係:新しい発見とその意義

自律神経が鼻の機能に与える影響は多岐にわたり、その一例として「nasal cycle」が挙げられます。

これは、片方の鼻腔が広がるともう片方が収縮するという自然な生理現象で、日本では「交代性鼻閉(こうたいせいびへい)」とも呼ばれています。

交代性鼻閉は病気ではなく、自律神経のバランスが取れている証拠の一つです。

Nasal Cycle(交代性鼻閉)の目的と新説

従来、nasal cycleの目的については諸説ありましたが、2021年にイギリスから新しい説が提唱されました。

それは、nasal cycleが感染防御に役立っているというものです。

ウィルスは一般的に32℃でよく増殖し、37℃でその増殖が抑えられることが知られています。

鼻呼吸の過程で、nasal cycleによって片方の鼻腔が詰まることで、咽頭部の温度が維持され、ウィルスが増殖しにくい環境が作られるのです。

さらに、加湿もウィルスの増殖を抑えるため、鼻の加温・加湿機能は感染防御の観点から非常に重要な役割を果たしています。

自律神経のバランスと健康維持

自律神経が正常に働くことで、nasal cycleも円滑に機能し、これが結果的にウィルス感染から身体を守る助けとなります。

したがって、自律神経のバランスを保つことは、日常生活における健康維持において重要です。

Nasal Cycle(交代性鼻閉)まとめ

  • Nasal Cycleとは:片方の鼻腔が広がるともう片方が収縮する生理現象。自律神経のバランスが取れている証拠。
  • 新説:2021年に提唱された説では、nasal cycleが感染防御に寄与しているとされる。
  • 感染防御の仕組み:Nasal cycleによって片方の鼻腔が詰まることで、咽頭部の温度が維持され、ウィルスの増殖が抑えられる。
  • 自律神経の役割:自律神経が正常に機能することで、nasal cycleも正常に働き、健康維持に貢献する。

このように、自律神経と鼻詰まりの関係を理解することで、日常生活における健康維持の一助とすることができます。

鼻の加温・加湿機能を最大限に活用し、ウィルス感染から身体を守るために、自律神経のバランスを保つことを心がけましょう。


漢方で見る後鼻漏の原因と対策方法

後鼻漏の漢方治療では、痰飲(たんいん)という概念が重要です。

痰飲とは、体内の津液(しんえき:生命活動に必要な水液)が異常な水分代謝によって変質したもので、体調不良の原因となります。

特に後鼻漏では、この痰飲が体内に停滞しやすく、健康を害することがあります。

漢方では、後鼻漏の治療はこの痰飲を除去し、体の水分代謝を正常化することが基本的なアプローチとされています。

「痰湿(たんしつ)/痰飲(たんいん)」証

後鼻漏の漢方治療において重要な概念は「痰湿/痰飲」です。

この痰飲が鼻腔に溜まり、喉にあふれ出すことで後鼻漏が引き起こされます。

漢方では、「痰湿(たんしつ)」証とも呼ばれるこの状態を改善するために、痰飲を取り除く『半夏厚朴湯(肺気逆・胃気上逆)』、『五苓散(利水滲湿)』などの漢方薬が使用されます。

特に、咳き込みや鼻詰まりが顕著な場合には「痰濁上擾(たんだくじょうじょう)」証が考えられます。

これは痰飲が頭部に上昇して粘膜を乱し、咳き込みや鼻詰まりを引き起こす状態を指します。

『半夏百朮天麻湯』などの漢方薬を使って痰飲を下降させ、後鼻漏を効果的に治療することが目的です。

「寒痰(かんたん)」証

後鼻漏がさらさらと水のように流れ落ちるタイプの場合、「寒痰(かんたん)」証が考えられます。

寒痰は、痰飲が寒邪と結びついて生じる状態であり、咳嗽、くしゃみ、呼吸困難、冷え症などの症状がよく見られます。

特にアレルギー性鼻炎の患者に多く見られる証です。

『小青竜湯』、『苓甘姜味辛夏仁湯』、『葛根湯加川芎辛夷』、『苓桂朮甘湯(体質改善)』などの漢方薬を用いて寒痰を除去し、後鼻漏を効果的に治療することが目的です。

「熱痰(ねったん)」証

後鼻漏が黄色く、粘り気がある場合、「熱痰(ねったん)」証が考えられます。

この状態では、痰飲が熱邪と結びつき、肺の機能を阻害することが特徴です。

痰の量が多く、後鼻漏や鼻水、痰がすっきり排泄されないことがあります。

また、咳嗽も伴うことがあります。

『荊芥連翹湯』などの漢方薬を用いて熱痰を排除し、後鼻漏を効果的に治療することが目的です。

「肺熱(はいねつ)」証

後鼻漏が鼻詰まりが強く、粘稠で黄色い場合、「肺熱(はいねつ)」証が考えられます。

肺は呼吸を司る重要な器官であり、「気をつかさどる」機能や「皮毛をつかさどる」機能を持ちます。

肺熱証では、肺に熱邪が侵入し、炎症を引き起こすことで後鼻漏が生じます。

この状態は副鼻腔炎にもよく見られる証です。

『辛夷清肺湯』などの漢方薬を使用して肺熱を除去し、炎症を鎮め、鼻水や膿の発生を抑え、排出を促進することで後鼻漏を効果的に治療します。

「肺陰虚(はいいんきょ)」証

後鼻漏に口臭や口渇が伴う場合、「肺陰虚(はいいんきょ)」証が考えられます。

肺の陰液が不足している状態であり、陰液の不足によって熱邪が生じ、炎症や口臭、口渇が引き起こされます。

後鼻漏の量は多くない場合でも、神経過敏となり、後鼻漏に悩まされることがあります。

この状態は慢性副鼻腔炎の患者に見られることが多い証です。

『麦門冬湯』、『生脈散』などの漢方薬を用いて肺の陰液を補い、後鼻漏を効果的に治療することで、鼻水や膿の排泄が促進されます。

「脾陽不足(ひようふそく)」証

脾の機能低下(脾胃気虚)が原因となる場合、この状態を「脾陽不足」と呼びます。

脾胃の機能が低下すると、飲食物から生成された気・血・津液を全身に輸送する能力(運化)が弱まり、津液が脾胃にたまって痰飲が発生します。

漢方の格言で「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」とあるように、脾の機能低下が痰飲の主な原因となります。

『苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)』、『防已黄耆湯』、『六君子湯』、『玉屏風散』などは、「痰飲」や「脾陽不足」を改善する代表的な漢方処方です。

痰飲の発生原因として、肺・脾・腎の五臓の水分代謝の失調が挙げられます。

後鼻漏におすすめの生活習慣と漢方的養生法

後鼻漏はアレルギーを引き起こしやすい食品や、体や胃腸を冷やす食べ物、甘いもの、脂っこい食品、辛いものなどの摂り過ぎに注意が必要です。

特に、小麦、ナッツ類、牛乳などのアレルギー反応を引き起こしやすい食品は控えることが推奨されます。

野菜中心で添加物の少ない和食を中心とした健康的な食生活を心がけましょう。

ストレス管理も重要であり、適度な運動や質の良い睡眠を心がけることが後鼻漏の症状改善に役立ちます。

また、血行を良くするためにお風呂やマッサージを取り入れることも効果的です。

漢方薬を活用して胃腸の調子を整え、痰飲(どろどろの分泌物)を予防することも大切です。

正しい生活習慣を整えることで、後鼻漏の不快な症状を和らげ、快適な日常生活を取り戻しましょう。

痰湿改善の心得

これらのポイントを実践することで、痰湿の改善に役立ちます。

ポイント詳細
主菜の工夫- 主菜には、なるべく雑穀入りのご飯を選びましょう。
- 夕食は少なめにすることを心がけます。
積極的に使う食材- 海藻
- キノコ
- 根菜
避けるべき食材- 卵の黄身
- 魚卵
- 脂っぽいもの
- 味の濃いもの
水分と糖分の制限- 水分と糖分は取り過ぎないように注意します。
食後の飲み物- 温かいウーロン茶
- プーアール茶
- はと麦茶

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薬剤師
河邊甲介

宮崎県の川南町にある峠の里からの絶景を眺めながら、漢方と薬膳を組み合わせた腸活相談が受けられる「薬局×セレクトショップ」です。

「中医薬膳師×薬膳素材専門士×ペットフーディスト」の資格を有する薬剤師が、体調不良、ダイエットやアトピーなどの悩みにも親身に対応します。

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著者プロフィール

河邊甲介 (薬剤師)

KOSUKE KAWABE

▷有資格

  • 薬剤師
  • 中医薬膳師:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
  • 薬膳素材専門士:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
  • ペットフーディスト

▷経歴

  • 福岡大学薬学部卒
  • 総合病院薬剤部・調剤薬局にて勤務
  • 2024年1月より宮崎県川南町(峠の里)にて漢方×薬膳×腸活のお店「ほどよい堂」を開局

身体とこころの安心をお届けします

薬剤師であり、漢方×薬膳×腸活の専門家として、「ほどよい堂」を運営しています。
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