漢方薬が効く人と効かない人の違いに腸内細菌が関係していた⁉原因は生薬に含まれる配糖体!
目次
漢方薬が
効く人と効かない人がいるのは
なぜ?
体内での薬の一生とは
飲み薬は口から体内に入って消化器内を通り、身体に作用を発揮し、そして体の外に出るまでの過程は大きく4段階に分けられます。
それが「吸収(Absorption)」「分布(Distribution)」「代謝(Metabolism)」「排泄(Excretion)」です。
薬学の世界では合わせて「ADME」と表現しています。
吸収とは、くすりが体の中に取り込まれることです。
小腸は栄養素などを吸収する臓器で小腸で吸収されたくすりは、“門脈”という血管を通って、次なる目的地の肝臓へと入っていきます。
代謝のメインの工場となるのが、肝臓です。肝臓は、栄養素や体の中に入ってきた様々な物質(薬・毒素)を分解したり、毒性を弱めたりする役割を持っています。
次は、薬などは肝臓から血流に乗って体を巡り、いろいろな臓器などに運ばれていきます。これを分布といいます。
様々な身体の部分で効果を発揮した薬は血液に乗って腎臓に運ばれ、尿として体外へと排泄されます。
腎臓は血液をろ過して、尿を作る臓器です。
漢方薬の有効成分は「配糖体」として存在している
漢方薬は多くなると20種類近い生薬から構成される多成分系の薬剤です。
その一つ一つの生薬には多くの活性成分が含まれており、西洋薬の大半が合成された単一成分の化学物質であるのとは対照的です。
その活性成分のほとんどは「配糖体」として存在しているのです。
分子構造内に糖鎖を有する配糖体は、ヒトの消化酵素ではほとんど分解できません。
そのままでは腸管から吸収されにくく、そのままでは効果を発揮しないのです。
ここで重要な働きをするのが腸内細菌なのです。
多くの腸内細菌は配糖体の糖鎖を切断して、有効成分をからだに吸収しやすい形に変えてくれます。
腸内細菌は漢方薬の有効性に大きく関わっているのです。
同じ漢方薬でも人によって効果が異なることや、同じ人でも効くときと効かないときがあることが知られていますが、これは配糖体を代謝する腸内細菌の状態に影響されている可能性があります。
西洋薬の効果と腸内細菌の関係とは
西洋薬のなかにも、腸内細菌の分解(加水分解など)や生体内変換(還元など)を介して薬の構造が変換され、有効性や安全性が変わってしまうものがあることが分かっています。
代表的な薬剤を紹介します。
- レボドパ:パーキンソン病の治療に使用される内服薬
- ジゴキシン:強心剤とも呼ばれ、心臓に直接働いて心臓の収縮力を強くし、脈をゆっくりさせて速くなりすぎた脈を整えます。
- ロスバスタチン:肝臓でのコレステロール合成に関与するHMG-CoA還元酵素を選択的・競合的に阻害し、コレステロール合成を抑制することで、血液中のコレステロールを低下させる内服剤です。
KAMPOmics
- 大黄(だいおう):
大黄の成分である配糖体センノサイドは腸内において、アグリコンであるセニジンを経てレインアンスロンとなり、これが腸を刺激することで排便が促されます。
sennidinへと変更することが可能な腸内細菌は,Bifidobacterium属の一部の菌種などに報告があるのみです。
- 甘草(かんぞう):
甘草の成分である配糖体の「グリチルリチン」は、一部の腸内細菌が産生する酵素によってグリチルレチン酸に変換されます。グリチルリチン酸には、抗炎症作用、免疫調節作用、肝細胞増殖作用などがあるとされています。
また、低カリウム血症伴う高血圧症である偽アルドステロン症の発現に関与する可能性が示唆されています。
- 茵蔯蒿湯(いんちんこうとう):
肝臓や胆のうの病気に伴う黄疸の改善などに用いられることがある漢方薬です。
「茵陳蒿(いんちんこう)・山梔子(さんしし)・大黄(だいおう)」の3味で構成されています。
このうち、山梔子に含まれる配糖体ゲニポシドが一部の腸内細菌が産生する酵素によってゲニピンに変換されます。
ゲニピンに肝保護作用があることが分かっています。
- 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん):
肥満対策に使用されることが多い漢方薬の代表格である『防風通聖散』非投与マウスは,体重増加に伴い脂肪肝の進展および血中脂質の増加が観察され、このマウスの便の腸内細菌を調べたところBacteroidetes門の菌が減少しFirmicutes門の菌が増加するという典型的な肥満マウスの菌叢パターンを示したと報告されています。
一方で防風通聖散投与群では,非投与群と比べて明確な体重増加の抑制,血中脂質および脂肪肝の改善作用を示すとともに,腸内細菌叢パターンは肥満型を示さなかったという結果が出ています。
- 大建中湯(だいけんちゅうとう):
乾姜・山椒・人参・膠飴から構成される漢方薬で,腹部に冷えと傷みがあり,腹部膨満感がある患者に用いられ、国内では術後のイレウスに対してよく用いられています。
吉川氏らによって絶食ストレスモデルラットにおける短鎖脂肪酸産生菌の減少を大建中湯が抑制する可能性があると報告されています。
大建中湯の薬物動態研究により,山椒成分である「HAS」は速やかに吸収され、乾姜成分であるジンゲロール類(GG)は吸収後速やかに抱合体となり再度腸管内に排泄され,人参成分であるジンセノサイド類(GIN)の多くは吸収されずに小腸を通過する可能性が示されています。
つまり、HASは投与初期に血流を介して標的に作用し,GGおよび GINは腸管内より作用を発現すると考えられています。
また、大腸に到達した GGおよび GINは配糖体であり,腸内細菌によって影響を受ける可能性があと考察されています。
漢方療法の効果が実感できるまでの期間とは?個人差を考慮したガイド
漢方療法は、古代中国から伝わる伝統的な治療法であり、近年再び注目を集めています。
その理由は、体の根本原因にアプローチし、バランスを整える効果が期待されるからです。
しかし、漢方療法を始める際には、効果が実感されるまでの期間について理解することが重要です。
この記事では、漢方療法の効果が実感されるまでの期間について解説します。
個人の体質や症状によって異なるため、一般的な目安と合わせて、効果を早めるための方法や注意点も紹介します。
漢方療法を通じて健康な体と心を手に入れるために、その効果を待つ期間について正しく理解しましょう。
漢方の効果はどれくらいで現れる?症状別の目安とその理由
漢方薬の効果が現れるまでの時間は、人によって異なります。
一般的には、軽い症状であれば数日から1週間程度で効果を感じることがありますが、慢性的な症状や重度の疾患の場合は数週間から数ヶ月かかることもあります。
漢方薬は体質や症状に合わせて処方されるため、効果が出るまでの時間も個人差があります。
即効性がある漢方薬の代表格が、こむら返りなどにも使用される『芍薬甘草湯』ですが、こむら返りの場合には、服用から5分ほどで症状が治まる場合もあります。
風邪の漢方薬で有名な『葛根湯』なども服用後数時間以内で汗ばんでくるなどの効果が現れてきます。
当然ながら、風邪をひいてお薬を飲んだのに効果が出るまでに何日もかかっていたら意味がないですよね!
漢方薬の効果を早めるためには、適切な漢方薬を選ぶことや、正しい服用方法を守ることが重要です。
また、生活習慣の改善や食事の見直し、適度な運動なども効果を高める要素となります。
漢方薬を服用している間は、定期的に医師との相談を行い、症状の変化や効果の確認を行うことも大切です。
漢方薬は症状の根本原因にアプローチし、体のバランスを整えることで健康をサポートします。
効果が出るまでの期間は個人差がありますが、継続して服用することで効果を実感できるでしょう。
即効性が期待できる漢方薬
10分以内
- 芍薬甘草湯
30分以内
- 大建中湯
- 六君子湯
数時間以内
- 葛根湯
- 麻黄湯
- 小青竜湯
- 麻黄附子細辛湯
- 抑肝散
- 甘麦大棗湯
- 五苓散
漢方を続けるべき期間はどのくらい?効果を実感するための目安
漢方療法は、古くから伝統的な治療法として知られており、その効果は体質や症状によって異なります。
では、漢方を続けるべき期間はどの程度なのでしょうか?
この記事では、漢方を続けるべき期間について解説し、効果を最大限に引き出す方法についても紹介します。
漢方を続けるべき期間は一般的には少なくとも2週間から1ヶ月程度とされています。
短期間での使用では効果を実感しにくいことがありますが、定期的に漢方薬を摂取し、体質に合わせた処方を続けることで、効果を感じることができます。
特に、慢性的な症状や根本的な改善を目指す場合は、長期間の継続が必要です。
漢方を続ける際には、以下のポイントに留意することが重要です。
- 専門家の指示に従う:
漢方薬の処方は医師・薬剤師によって行われます。医師・薬剤師の指示に従い、定期的に診断を受けることが大切です。 - 継続的な摂取:
効果を感じるためには、定期的に漢方薬を摂取し続けることが必要です。漢方療法は時間をかけて体を整えるため、短期間の摂取では効果を実感しにくいことがあります。 - 生活習慣の見直し:
漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、健康的な生活習慣を心がけることも重要です。バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠などを意識しましょう。
漢方を続けるべき期間は個人によって異なりますが、専門家との相談をしながら適切な期間を見極め、効果を最大限に引き出すよう心がけましょう。
体調不良の原因を取り除くことが、治療の効果を高める一番の方法です!
食事や運動などの生活習慣を見直すだけで症状が改善してくることも多いのです。
参考文献
・西山光恵. ファルマシア 58, 553–557 (2022). ※https://doi.org/10.14894/faruawpsj.58.6_553
・漢方薬の薬効には腸内細菌が関与する/服部 征雄:https://doi.org/10.11209/jim.26.159
・腸内細菌に着目した漢方薬研究の最前線/内藤 裕二: https://doi.org/10.14894/faruawpsj.58.6_537
・腸内細菌は漢方薬の有用性を紐解く端緒となる/髙山 健人: https://doi.org/10.14894/faruawpsj.58.6_547
・腸内細菌による漢方薬成分の代謝と薬物相互作用/本間 真人, 嶋田 沙織: https://doi.org/10.14894/faruawpsj.58.6_542
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著者プロフィール
河邊甲介 (薬剤師)
KOSUKE KAWABE
▷有資格
- 薬剤師
- 中医薬膳師:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
- 薬膳素材専門士:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
- ペットフーディスト
▷経歴
- 福岡大学薬学部卒
- 総合病院薬剤部・調剤薬局にて勤務
- 2024年1月より宮崎県川南町(峠の里)にて漢方×薬膳×腸活のお店「ほどよい堂」を開局
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薬剤師であり、漢方×薬膳×腸活の専門家として、「ほどよい堂」を運営しています。
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