腸内細菌とビタミンD:がん予防における新たな可能性

腸内細菌とビタミンDの関係が、近年の研究で注目を集めています。

腸内細菌は健康な腸内環境を維持し、免疫機能をサポートする重要な役割を果たしています。

一方、ビタミンDは骨の健康だけでなく、免疫系にも深く関与しており、がん予防にも寄与する可能性が示唆されています。

特に、腸内細菌とビタミンDの相互作用ががん予防にどのような影響を及ぼすのかについての研究が進んでおり、新たな治療法や予防策の開発に繋がる可能性があります。

本記事では、最新の研究成果を元に、腸内細菌とビタミンDががん予防にどのように寄与するかを探ります。

ビタミンDと腸内細菌:がん予防への新しいアプローチ

ビタミンDと腸内細菌の相関関係

最新の研究によると、腸内のビタミンDが特定の腸内細菌を増やし、それがリンパ球の一種であるT細胞を刺激してがん細胞を攻撃する可能性が示されています(2024年4月25日付「Science」)。

ビタミンDと腸内細菌の関係が、がん予防において重要な役割を果たすかもしれません。

T細胞の役割とその重要性:免疫系の司令塔を理解する

T細胞は、血液中の白血球の一種で、リンパ球に分類されます。

リンパ球の中で重要な役割を果たし、胸腺(thymus)でつくられるため、T細胞と名付けられました。

T細胞は血中リンパ球の60~80%を占め、骨髄で生成された未熟なリンパ球が胸腺で分化・成熟し、血流や末梢組織に移行します。

T細胞は、キラーT細胞とヘルパーT細胞の2種類に大別されます。

キラーT細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞を排除する細胞性免疫に関与します。

一方、ヘルパーT細胞は他の免疫細胞の働きを調節し、免疫応答の司令塔として機能します。

近年の研究で、T細胞にはさらに多様な種類が存在することが明らかになっています。

例えば、感染防御に重要なTh17細胞、炎症を抑える制御性T細胞、リンパ組織の形成を促す濾胞ヘルパーT細胞、長期にわたる免疫記憶を維持する記憶T細胞、腸の粘膜に多く存在するγδT細胞、そしてNK細胞とT細胞の両方の特徴を持つNKT細胞などが挙げられます。

これらのT細胞の詳細は未だに不明な点が多く、今後の研究進展が期待されています。

T細胞は免疫系の中心的役割を担い、その機能と多様性は、がんや感染症の治療研究において重要な鍵を握っています。

腸内細菌とがん治療

腸内細菌ががん治療に与える影響は、2018年の研究で示されました。

特に「チェックポイント阻害薬」の効果が、腸内細菌の違いに関連していることが明らかにされました。

2021年には、効果が見られた患者の便からの細菌を移植することで治療効果が改善された研究も発表されています。

チェックポイント阻害薬とは?がん治療の新たな希望

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つための薬です。

T細胞の表面には、「異物を攻撃するな」という命令を受け取るアンテナがあります。

一方、がん細胞もT細胞に「攻撃するな」と命令を送るアンテナを持っています。

PD-1抗体やPD-L1抗体のような免疫チェックポイント阻害薬は、抗がん剤よりも有効性が高いことが臨床試験で証明されています。

2015年末にニボルマブが日本で初めて承認され、2016年にペムブロリズマブ、2017年にはアテゾリズマブやデュルバルマブが承認されました。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除する薬です。

PD-L1というタンパク質が多く認められる患者で、PD-1抗体やPD-L1抗体の有効性が高いと報告されています。

このため、がん細胞の組織標本を用いてPD-L1免疫染色検査が行われます。

ペムブロリズマブ単独の治療は、PD-L1が1%以上認められる非小細胞肺がんに対して承認されています。

プラチナ製剤と他の抗がん剤を組み合わせる併用化学療法後に進行した場合、二次治療としてニボルマブやペムブロリズマブ、アテゾリズマブが用いられます。

特に、PD-L1が1%以上(50%以上)認められる非小細胞肺がんでは、初回治療としてペムブロリズマブ単独の治療が適応されます。

参考文献:日本肺癌学会HP、国立研究開発法人国立がん研究センターHP

ビタミンDの役割

ビタミンDは太陽光によって体内で合成され、骨や免疫系、筋肉、神経の健康に重要です。

マウスでの研究では、ビタミンDが腸内細菌を通じて免疫系に作用し、がん予防に寄与する可能性が示されています。

ビタミンDは、体内で多くの重要な役割を果たす脂溶性ビタミンです。

その主要な役割と効果は以下の通りです。

1. 骨の健康

ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収を助け、骨の形成と維持に必要です。

ビタミンD不足は、骨軟化症(成人では骨粗鬆症、子供ではくる病)を引き起こす可能性があります。

2. 免疫機能

ビタミンDは免疫系を調節し、感染症や慢性疾患から体を守る役割を果たします。

適切なビタミンDレベルは、風邪やインフルエンザなどの感染症のリスクを減少させることが示されています。

3. 心血管の健康

ビタミンDは、心血管系の健康を維持するのに役立ちます。

いくつかの研究では、ビタミンD不足が高血圧、心臓病、脳卒中のリスクを高めることが示唆されています。

4. 精神的健康

ビタミンDは、脳の発達や機能にも関与しており、気分障害やうつ病との関連が研究されています。

適切なビタミンDレベルは、うつ病の予防や治療に役立つ可能性があります。

5. インスリン感受性

ビタミンDは、インスリン分泌とインスリン感受性を調節する役割を果たし、2型糖尿病の予防や管理に役立つとされています。

6. がん予防

いくつかの研究では、ビタミンDが特定のがん(大腸がん、乳がん、前立腺がんなど)のリスクを減少させる可能性があることが示されています。

ビタミンDは、細胞の増殖と分化を調節し、がん細胞の成長を抑制する働きがあります。

7. 筋力と体力

ビタミンDは、筋力や体力の維持にも重要です。

特に高齢者では、ビタミンD不足が筋力低下や転倒リスクの増加と関連しています。

ビタミンDの摂取源

ビタミンDは、日光(紫外線B)を浴びることで皮膚で生成されます。

また、食事からも摂取できます。

主な食物源には、脂肪の多い魚(サーモン、マグロ、サバなど)、肝油、強化乳製品、卵黄などがあります。

必要に応じてサプリメントも利用されます。

推奨摂取量

ビタミンDの推奨摂取量は年齢、性別、生活環境によって異なります。

一般的には、成人では1日あたり600~800IUが推奨されますが、特定の条件下では医師の指導の下でこれ以上の摂取が必要となる場合もあります。

ビタミンDの役割は広範で、全体的な健康を維持するために重要な栄養素です。

バランスの取れた食事や適度な日光浴を心掛け、必要に応じてサプリメントを利用することで、適切なビタミンDレベルを維持することが推奨されます。

ビタミンDとがんリスク

ビタミンDが不足するとがんリスクが高まることが示されており、特に日光が少ない地域ではこのリスクが顕著です。

ビタミンD活性が高い患者はがん生存率が高く、免疫治療にも良好な反応を示すことがわかっています。

腸内細菌の多様性とビタミンD

最近の研究(Nature Communications, 2020年11月26日)によると、血中活性型ビタミンD値が高い人は腸内細菌の多様性が高いことがわかっています。

腸内細菌の多様性とは、腸内で様々な種類の細菌が共存している状態を指し、これが腸内環境を良好に保つ要素です。

多様性が高い腸内細菌は、糖尿病やがん、潰瘍性大腸炎などの疾患リスクを低下させる可能性があります。

酪酸菌とビタミンD

血中活性型ビタミンDを高く維持することで、酪酸菌(「スーパー善玉菌」)が増えることが証明されています。

酪酸菌は腸内環境を整え、健康維持に寄与することが知られています。

長寿者に多く見られる酪酸菌の存在が、ビタミンDの役割を示唆しています。

酸素に対する感受性と増殖場所

「乳酸菌」「酪酸菌」「糖化菌」の3種の菌は、それぞれ異なる酸素の感受性を持ち、腸内での増殖場所が異なります。

この違いが腸内環境に与える影響についてまとめました。

菌の種類酸素に対する感受性増殖場所説明
乳酸菌通性嫌気性菌小腸下部~大腸酸素があってもなくても生育可能
酪酸菌偏性嫌気性菌大腸酸素がない状態でのみ生育
糖化菌好気性菌小腸上部酸素がある状態でのみ生育

腸内環境を整える酪酸菌の働きと食物繊維の関係

酪酸菌とは、大腸に存在し、酪酸を生成する腸内細菌の総称です。

酪酸菌は大腸内で食物繊維を分解して酪酸を作り出します。

酪酸は短鎖脂肪酸の一つで、肥満予防効果や免疫機能を整える効果があり、大腸の活動に必要なエネルギー源でもあります。

また、酪酸は腸内環境を整える働きもあります。

しかし、酪酸菌を含む食品は、ぬか漬けや臭豆腐といった非常に限られたものしかありません。

継続的に酪酸菌を摂取するためには、サプリメントの利用が推奨されます。

さらに、酪酸菌が大腸で効果的に活動するためには、酪酸菌の好む食材を日々の食事に取り入れることも重要です。

腸内細菌は水溶性の食物繊維を好みます。

海藻類や果物には水溶性の食物繊維が豊富に含まれているため、これらの食材を積極的に摂取することが腸内環境の改善に役立ちます。

現在、多くの人が1日の食物繊維摂取量が不足していると言われています。

まずは食物繊維の多い野菜をしっかりと摂り、その上で水溶性の食物繊維も意識して取り入れることが推奨されます。

まとめ

ビタミンDと腸内細菌の関係は、がん予防において重要な可能性があります。

ビタミンDを適切に摂取し、腸内細菌の多様性を高めることが、健康維持とがん予防に役立つかもしれません。

さらに研究が進むことで、ビタミンDと腸内細菌の関係がより明確になり、がん予防の新たな戦略が確立されることが期待されます。

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薬剤師
河邊甲介

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著者プロフィール

河邊甲介 (薬剤師)

KOSUKE KAWABE

▷有資格

  • 薬剤師
  • 中医薬膳師:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
  • 薬膳素材専門士:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
  • ペットフーディスト

▷経歴

  • 福岡大学薬学部卒
  • 総合病院薬剤部・調剤薬局にて勤務
  • 2024年1月より宮崎県川南町(峠の里)にて漢方×薬膳×腸活のお店「ほどよい堂」を開局

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薬剤師であり、漢方×薬膳×腸活の専門家として、「ほどよい堂」を運営しています。
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