「気虚(ききょ)」の漢方的養生法:体質別の効果的なアプローチ
気虚タイプは、身体の「気」不足により、臓腑(主に肺・脾・腎・心)の働きが低下した状態を指します。
この状態ではエネルギー不足や内臓機能の低下が現れやすく、さまざまな体調不良の原因になることがあります。
そんな時に重要なのが、体質に合った養生法です。
体質に応じたアプローチを取ることで、より効果的に気を補い、健康をサポートできます。
例えば、冷え性の方には温める食材や生活習慣を取り入れることが大切ですし、ストレスにさらされている方にはリラックスできる環境を整えることが求められます。
今回は、気虚に悩む方々に向けて、体質別の具体的な養生法をいくつかご紹介します。
食事や生活習慣の工夫を通じて、自分自身の体調を整え、心身ともに健やかな日々を送るためのヒントを見つけてみましょう!
それでは、さっそく見ていきましょう。
漢方的には体質は8つに分することが出来ます!
体質ごとに養生法は異なります。
それぞれの体質(タイプ)別に解説していきます。
目次
気虚の原因:気のエネルギー不足が引き起こす不調
気の量が不足している、あるいは気の機能が低下している状態を ”気虚” といいます。
脾胃の働きが低下し、飲食物の消化吸収が低下することで気の生成が低下することが主因となります。
そのほか、ストレス過剰や過労・大病などによって、気が消耗してしまい気虚になることもあります。
気のエネルギー不足により、発育不全・冷え性・下痢・風邪をひきやすいなど様々な不調をきたします。
気虚の場合は「補気治療」を行います。
気虚が引き起こされる3つの理由とは?原因からわかる改善策
- 腎の精気不足:
生まれつき腎に精気が足りないと気の生成が不十分になり、エネルギー不足を引き起こします。腎は 「先天の本」と言われます。 - 脾胃の運化機能の低下:
食べ物や水分から得られる栄養素(水穀精微)を消化し全身へ運ぶ脾胃の働きが弱くなると、十分な気を生成できなくなります。脾は 「後天の本」 と言われます。 - 肺の呼吸機能の低下:
新鮮な空気と栄養素が結びつくことで気が生成されるため、肺の働きが弱まると気が不足しがちになります。
脾胃の役割と消化機能
脾と胃は、飲食物や水分を消化し、体に必要な営養(栄養)を全身に運ぶ重要な役割を担っています。
このプロセスには、以下の2つの機能が含まれます。
- 運化機能:
脾胃は、飲食物や水分を「水穀精微」という営養物質に変化させ、全身に運ぶ「運化」という機能を持っています。これにより、体に必要なエネルギーが各器官へと行き渡ります。 - 腐熟機能:
飲食物を消化する「腐熟」の機能により、脾胃は摂取した食べ物を分解・変化させ、栄養が吸収しやすい状態にします。この働きによって、体内で必要な営養が得られます。
脾胃のこれらの機能が正常に働くことで、飲食物や水分が効率よく消化・吸収され、体全体に営養が行き渡ります。
気虚のサインを見逃すな!主な症状と対策法
- 自汗:
普通にしていても汗が出てしまうこと。固摂作用の低下が原因。
- 食欲不振・消化不良:
飲食物が消化されず食欲がわかない状態。
気虚になると特に胃腸の機能が低下しやすく、食欲低下や消化不良、食後の不快感、胃下垂、下痢、便秘などさまざまな胃腸トラブルが起こりやすくなります。
飲食物の推動作用の低下が原因。
- 倦怠感、疲れやすい:
全身に力が入らず息切れをする状態。
すぐに横になりたくなったりします。
声も小さく、眠くなりやすい。
脾胃の低下による栄養不足が原因。
- 手足の冷え:
温煦作用が失調して、保温機能が低下したため手足の冷えが生じる。
温かいものが欲しくなります。
- 風邪をひきやすい、感染症にかかりやすい:
漢方では、花粉・ハウスダストや細菌・ウイルスなどの外敵から身を守る力を「衛気(えき)」と呼んでいます。
「防衛の ”気”」という意味です。
からだを守る衛気は五臓の中でも特に「肺・脾・腎」と深い関係があります。
気虚による主な症状
気虚は、肺、脾、腎、心に関係するため、各臓器の気が不足することで以下のような症状が現れます。
- 肺気虚:
- 息切れ、無気力、咳が出やすい
- 衛気(バリア機能)不足で汗をかきやすく、風邪をひきやすい
- 脾気虚:
- 食欲不振やお腹の膨満感
- 疲れや痩せ、むくみや倦怠感
- 大腸の機能低下で下痢しやすくなる
- あざができやすい、生理不順
- 心気虚:
- 動悸や胸苦しさ、息切れ、不整脈
- 顔色が白っぽくなり、めまいが起こりやすい
- 腎気虚:
- 頻尿や尿漏れ、腰のだるさ
- 忘れっぽさや集中力の低下
- 白髪や抜け毛、耳鳴りなど
気虚タイプの改善方法
- 適度な運動:
気の流れを改善するため、軽い運動やストレッチを習慣化しましょう。 - バランスの良い食事:
消化を助ける食材(山芋、米、甘草、ナツメなど)や温かい飲み物を摂取することで、脾胃の働きをサポートします。 - 休息とリラックス:
ストレスは気虚を悪化させるため、質の良い睡眠やリラクゼーションを心がけましょう。
気虚タイプの方は、日常的に健康管理に気をつけることで、体力や免疫力を維持し、快適な生活を送りやすくなります。
【気虚タイプ別】あなたはどのタイプ?原因・症状・おすすめケア方法
以下に、気虚タイプ別の原因・症状・ケア方法を表にまとめました。
この表は、各気虚タイプごとに原因、症状、そしてそれぞれのケア方法が一目で分かるようにまとめています。
気虚タイプ | 原因 | 症状 | ケア方法 |
---|---|---|---|
肺気虚タイプ | 虚弱体質、老化、慢性疾患による肺気の不足 | 咳、喘息、自然発汗、風に当たると寒気がする | 肺の気を補い、呼吸器系を強化 |
心気虚タイプ | 虚弱体質、老化、慢性疾患で心気が消耗 | 動悸、息切れ、自然発汗、脈が弱く不整脈が出やすい | 気を補い、血の巡りを良くし、心臓を健やかに保つ |
脾気虚タイプ | 不規則な食生活、疲労、慢性疾患による脾気の傷み | 顔色が黄色、食欲不振、お腹の張り、内臓下垂、無気力、下痢 | 気を補い、消化吸収を促進する脾の働きを強化 |
腎気虚タイプ | 虚弱体質、老化、慢性疾患による腎気の消耗 | 足腰のだるさ、耳鳴り、白髪、頻尿、尿漏れ、夜間頻尿、脈が弱い | 腎の気を補い、体力と精神の活力を支える |
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気虚タイプのための養生法:心身をリフレッシュする方法
- ゆっくり休む:
とにもかくにも ”心身ともに休む” ことが最強の改善方法です。
心身の休息に大切なものの代表が ”睡眠” です。睡眠時間と睡眠の質どちらも重要です。
スマホやパソコンから発せられるブルーライトは睡眠の質を下げることが分かっています。
寝る前にブルーライトを浴びてしまうと体内時計の調節が乱れ、睡眠と覚醒のリズムが崩れてしまいます。
- 胃腸をしっかり休める:
食べ物を消化するにはエネルギー(気)を消費するため、気虚の状態で無理にたくさん食べてもうまく栄養を吸収できず、疲れた胃腸を無理に働かせることになり、逆に胃腸の負担になってしまうこともあります。
食欲がないときは無理に食べるのはNGです。
脂の多い食べものや食物繊維の多い食べものなどは、消化しにくく、胃腸の負担になりため控えるようにしましょう。
- 疲れた時は天然の甘味を適量摂る:
甘いものは少量であれば脾胃を養うが、とりすぎると脾胃を傷つけると漢方では考えられています。
脾胃とは消化器系を意味します。
ハチミツなどがおすすめです。
健康アドバイス
- 食事:
苦味の強い食材、生もの、脂っこいものは控え、補気食材と行気食材を組み合わせると効果的です。 - 生活習慣:
過労を避け、音楽やお笑い、演劇などリラックスできる時間を大切にしましょう。冷え対策も重要で、特に春や夏に陽気を補うと効果的です。日光浴もおすすめです。
気虚タイプの健康維持におすすめの食材とその効果解説
個々の体質に合った食材を選ぶことで、健康と調和が生まれます。
例えば、冷え性の方には生姜やニンニクが体温を上げ、免疫力向上に寄与します。
一方で、火照りやすい体質の方はきゅうりやもやし、トマトなどが冷却効果をもたらし、バランスを保ちます。
また、消化力が低い方には軽めの食材や消化を助ける酵素が含まれたものが適しています。
体質に合わせた食材の選択が、日々の健康維持に繋がります。
それぞれの体質に対応した食材を知り、食生活を工夫することで、より良いバランスのとれた健康な生活が実現できます。
気を補う!気虚タイプに最適な食材リスト
- 補気・健脾:
米、もち米、はと麦、オートミール、さつまいも、かぼちゃ、ブロッコリー、鶏肉、豚肉、黒豆、豆乳、干し椎茸、なつめなど - 芳香行気:
蕎麦、らっきょう、ニラ、柚子、みかん、陳皮、ジャスミンなど
分類 | 食材 |
---|---|
中薬 | ナツメ(棗・大棗)、高麗人参(吉林人参)、党参、太子参、西洋参、白朮、黄耆、白扁豆、甘草 |
穀物・豆類 | 米(うるち米)、もち米、大豆、枝豆、いんげん豆、白豆、オートミール(燕麦) |
野菜・きのこ類 | 生姜、かぼちゃ、栗、セリ、キャベツ、長芋、ジャガイモ、さつま芋、カリフラワー、舞茸、しいたけ |
果物類 | 桃 |
肉・魚介類 | 牛肉、豚肉、鶏肉、ガチョウ肉、アジ、サバ、イワシ、サンマ、カツオ、ウナギ、ドジョウ |
調味料・薬味 | 氷砂糖、黒砂糖、水飴、ハチミツ、ローヤルゼリー |
飲み物 | 甘酒(米麴)、しょうが湯、ココア、杜仲茶、よもぎ茶、四君子茶、霊芝茶 |
穀物類の健康効果:気を補う食材としての役割
お米、もち米、玄米、ひえなどの雑穀類は、五臓では ”脾” を助け、気を補う働きがある食べものだと漢方では言われています。
栄養学の面からも、活動エネルギーの源になる炭水化物を多く含むため、エネルギー不足の状態である気虚には特におすすめです。
胃腸が弱っているときは負担をかけないように、お粥にすると胃腸を温めてくれます。
漢方的には胃腸(脾胃)は冷えを嫌います。
芋類の健康効果:滋養強壮に最適な食材たち
じゃがいも、さつまいも、さといも、やまいもなどの芋類やカボチャは、気を補う働きを助ける食べ物と言われています。
やまいもは漢方では「山薬」と呼ばれ、脾・肺・腎の機能を高め、滋養強壮薬として用いられています。
また、からだを潤す作用もあります。
湿気を取り除く!豆類とキノコ類で健康をサポートする方法
枝豆、えんどう豆、グリーンピース、さやいんげん、そら豆などの豆類や椎茸や舞茸などのキノコ類は気を補う働きを助ける食べものだと漢方では言われています。
豆類は ”脾胃” の働きを改善し、胃にたまった湿気(痰湿)を取り除いてくれる食べ物と漢方では考えられています。
胃は漢方では ”湿” を嫌います。
うつ状態を改善する?ナツメ(棗)に含まれる鉄分の重要性
ナツメは鉄分やカルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル、葉酸やナイアシンなどのビタミンB群、食物繊維などが豊富で、栄養価が高い食材です。
女性の元気の源である鉄分が豊富で、鉄分の含有量は、プルーンの1.5倍以上!
最新の研究では、”うつ状態に至る要因の一つ” として鉄が不足しているということが明らかになっています。
漢方では「大棗」とも呼ばれ、漢方薬の生薬としても幅広く使われています。ナツメは気と血を補う働きを助けると言われています。
あなたの体質に合った気虚タイプ向け漢方薬の選び方
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
『補中益気湯』は、胃腸のはたらきを高め、食欲を出すことで ”気” を増やし、”気” を上のほうに動かしてめぐらせることで、疲れを改善していく処方です。
補中益気湯の漢字に含まれている「中」は体の内側(消化器)を意味しています。
消化器を立て直して元気を益すという漢方薬です。
食欲不振を改善する漢方薬:「六君子湯(りっくんしとう)」の特徴
胃もたれ感が強く、食欲が落ちているひとにおすすめの漢方薬が『六君子湯(りっくんしとう)』です。
胃腸虚弱体質の改善にも使用されます。
消化吸収を高め栄養状態を改善し体力をつけることができます。
気と血を同時に補う「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」の魅力
体力が低下して、貧血などの症状がある方におすすめの漢方薬が『十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)』です。
漢方的には ”気” と ”血” を同時に補ってくれる漢方薬です。
慢性的な疾患に罹患している高齢者は服用してみる価値がありそうです。
免疫をアップさせる働きも認められています。
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著者プロフィール
河邊甲介 (薬剤師)
KOSUKE KAWABE
▷有資格
- 薬剤師
- 中医薬膳師:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
- 薬膳素材専門士:本草薬膳学院(学長:辰巳洋)にて資格取得
- ペットフーディスト
▷経歴
- 福岡大学薬学部卒
- 総合病院薬剤部・調剤薬局にて勤務
- 2024年1月より宮崎県川南町(峠の里)にて漢方×薬膳×腸活のお店「ほどよい堂」を開局
身体とこころの安心をお届けします
薬剤師であり、漢方×薬膳×腸活の専門家として、「ほどよい堂」を運営しています。
中医学的体質診断を基に、個別に最適な健康アドバイスを提供し、無料相談も実施中。
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